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Population

人口変化とその影響を明らかにし、変化対応を支援するブログです。

投機のメカニズム

投機とは、短期的な価格変動の目論見から、利ざやを得ようとする行為のことです。世の中には投機をギャンブルと同じものだと考える人がいますが、投機とギャンブルには明確な違いがあります。投機とギャンブルの違いとは、ギャンブルが本来ならなかったリスクを作り出すのに対し、投機は既存のリスクの担い手を変える、ということです。例えば、競馬はわざわざ馬を競馬場で走らせることによりリスクを作りますし、ルーレットはわざわざ円盤の上に玉を転がして予測不可能な状況を作り出すわけです。しかし、投機はリスクをゼロから作りだすのではなく、初めからあるリスクの担い手を変えます。世界ではじめての株式会社は1602年にオランダで設立された東インド会社ですが、これは航海のリスクを1人で抱えきれない為、『航海に成功すれば貿易で得た利益を皆で分配する、失敗すれば集めた資金はゼロになる』という仕組みで、みんなでリスクをシェアしたものです。現在の株式投資でもこれと同じで、創業者が1人では抱えきれないリスクを投機によってシェアし、利益が出た場合には皆で分けるという仕組みになっています。


このような投機ですが、時には暴走してバブルに陥ることがあります。1980年後半の日本の不動産バブル、1990年後半のITバブルなどがその例です。このようなバブルで痛い目を見て「投資は良くない!」と考える日本人は多いですが、実はバブルには規則性があり、それを知っていればバブルに踊らされる可能性を減らせます。なぜなら、バブルは17世紀から何回も繰り返し発生している事象であり、私たちは過去の歴史から投機のメカニズムを学ぶことができるからです。今回は、チャールズ・キンドルバーガーによる投機のメカニズムを紹介します。


投機の熱狂は通常、投機への関心を煽る「転位」からはじまります。転位は、収益率の上昇、新しい投資対象の出現、のどちらかから発生します。何かのきっかけで、ある資産の収益率が上昇すると、他の人もその資産への投機の関心を持つわけです。日本の不動産バブルを例にとると、不動産価格が上昇し始めたことで、色んな人が不動産投資に興味を持ったわけです。新しい投資対象の出現も同様で、インターネットの登場がIT株への投資の関心を生み、証券化という技術がサブプライムローンへの投資を生んだわけです。


「転位」の次に、「正のフィードバック」が発生します。不動産に投資する、不動産価格が上がって儲かる、皆がもっと不動産に投資する、もっと不動産価格が上がって儲かる、というフィードバックです。この結果、「陶酔」の段階が発生し、理性を持って考える投資家が減ってきます。ロンドンの南海バブルの時には皆が南海会社の資産を求めてエクスチェンジ通りに殺到し、オランダのチューリップバブルの時には女性から老人までチューリップを売買し、日本の不動産バブルのときには大企業が本業そっちのけで財テクをしたわけです。これが陶酔状態です。


「陶酔状態」のあとには、「信用拡大」と「陶酔状態の利用」が起きます。ざっくり言えば、信用拡大とは簡単にお金を借りられるようになることです。日本の不動産バブルの時は、不動産を担保に個人や中小企業が多額のお金を借りることができました。この時代の銀行は担保なしで何千万という金額を即決で中小企業に貸したと言われています。投資家はこのような限度を超えた信用拡大を用いて利益を膨らませます。また、企業や詐欺師は「投資家の陶酔状態」を利用しようとします。ITバブルの時に実体のない紙屑みたいな企業がたくさん上場しました。陶酔状態に陥ってる投資家は、こぞって紙屑みたいな企業を買い求めたわけです。


しかし、限度を超えた信用供与と、実体のない企業への投資には限界があり、賢明な投資家は市場から離れます。また、価格が高すぎるため実需で株式や不動産を買っていた人が、市場から離れます。人々も「現在の価格は高すぎる」と認識し始めます。この結果、理由もなく、いきなり「資産下落」がはじまります。ひとたび資産が下落すると、不動産を担保にお金を借りていた投資家は、銀行から資金の返済を命じられ、借金返済のために不動産を売却しようと考えます。その他の投資家も、下落する市場におびえ、一斉に売り始めます。


「資産下落」と同時期に、「信用逼迫」も発生します。みんなが不動産に投資する資金を求めても、世の中に出回っているお金の量には限りがあるので、銀行がすべての融資に応じられなくなるからです。また、ひとたび資産下落がはじまれば、喜んでお金を貸していた銀行が手のひらを返したのように「貸し剥がし」に転じ、誰も資金を貸したがらなくなります。限度を超えて貸し出しをしていたわけですから、早く回収しないと返ってこない恐れがあり、信用の逆回転がはじまります。


「資産下落」によって大半の投資家が大損をするため、バブルの後には「貪欲に対する嫌悪感」が発生します。人々がバブルを主導した企業の経営者や政治家を一斉に非難したり、政治家がレバレッジや信用拡大を禁止する法案を成立させたりします。サブプライム問題の後、格付け会社や投資銀行が非難されたり、アメリカで金融規制改革法案が出てきてる現状と一緒です。資産下落が発生した後は、世の中に割安な資産が増えてきます。これが次のバブルの引き金になる可能性があります。また、規制をくぐりぬけようと、革新的な金融商品が登場したりします。この結果、再び「転位」が発生するわけです。


バブルに踊らされない為には、投機のメカニズムのどこにいるのかを掴むのが大事です。つまり、「転位」→「正のフィードバック」→「陶酔」→「信用拡大」→「陶酔状態の利用」→「資産下落」→「信用逼迫」→「貪欲に対する嫌悪感」→「転位」という投機のメカニズムのどこにいるかを理解する必要があります。サブプライム問題後に「貪欲に対する嫌悪感」が出現しましたが、良く見れば現在は再び、「転位」や「正のフィードバック」や「陶酔」が始まっているとも考えられます。金や小麦といった商品に投資する商品ETFという新しい金融商品の登場、新興国投資の収益率向上、排出権取引の拡大、中国の債券市場拡大や人民元の変動幅拡大など、次のバブルの候補には常に注意したいところです。