Population

人口変化とその影響を明らかにし、変化対応を支援するブログです。

『物事を家庭内で全て解決する』時代は終わった

昨日の日記で『急激な少子高齢化と家族構成の変化に対応するためには、日本の経済構造を理解する必要がある』と主張しましたが、日本の代表的な経済構造としては『長時間労働』が挙げられます。下の図は社会実情データ図録から引用したもので、年間実労働時間の各国の推移を示していますが、日本は労働時間が最も長い国の一つとなっています。



日本は歴史的に長時間労働で発展してきた国です。上の図をみると、経済成長率が高かった1989年以前は、日本の労働時間が高水準で推移しています。一方で、経済成長率が低く『失われた10年』と呼ばれた1990年から2000年の間は、日本の労働時間が大幅に減っています。失われた10年が発生した理由には色々な説がありますが、最も有名なのは林=プレスコット仮説であり、失われた10年を労働時間と生産性の低下から説明するものです。この仮説は、週当たりの平均労働時間がバブル期前後で44時間から40時間に低下したこと、労働時間が1割減ったことが、経済成長率を押し下げたと主張しています。日本では長時間労働の時代には経済成長率が高かったのですが、労働時間が減ったことで経済成長率が低下してしまいました。


日本が長時間労働で発展したことを示す例は江戸時代にも見られます。この時代は世界的に農業で生産量が増えますが、ヨーロッパが家畜を使って生産量を増やした(資本集約型)のに対し、日本は労働時間を増やして生産量を増やしました(労働集約型)。ヨーロッパ型の農業発展では人口に対して家畜の数が増えました。土地を掘り起こす犂(すき)は、当初家畜一頭で曳いていたものが十二頭曳きまで進化しています。家畜をたくさん使って、多くの外部エネルギーを導入するのがヨーロッパ型の発展方法でした。


ところが、日本で人と家畜の数を比較すると、17世紀には人口20人あたり1頭だったのが、19世紀には100人あたり1頭になっています。家畜の割合が減少したということは、それまで家畜がやっていた仕事を、人間が代わりにやるようになったことを意味します。日本では家畜から人力へとエネルギー源が変化しました。多くの人が働き、労働時間を増やすことで、経済発展を実現したわけです。今まで夫婦だけで働いていた農家が子供や祖父・祖母を含めて一家総出で働くようになり、一日8時間働いていた農家が10時間働くようになったというイメージです。


このように、日本は江戸時代も高度経済成長期も、労働時間を増やすことで経済発展を実現してきました。そのような歴史や成功体験が、勤勉や努力を美徳とする日本の文化につながったと考えています。日本の長時間労働は歴史的なものであり、美徳や文化にまで影響を与えていて根が深く、簡単には変わらないのではないでしょうか。最近ではライフワークバランスという言葉が流行ってますが、私はその概念には大賛成であるものの、これが日本に根付くかどうかについてはやや懐疑的です。少子高齢化をライフワークバランスで乗り切るのも一つの方法ですが、これまで全て家庭内で解決してきた家事・育児・介護をビジネスやサービスで一部代替するという方法もあるはずです。歴史的経緯に照らせば、こちらの方が成功する確率が高いのではないでしょうか。


フルタイムで働く女性が忙しいのは、労働時間が長いことと、育児・家事・介護に費やす時間が長いことが理由です。労働時間を短くしただけでは問題は半分しか解決しません。子供を24時間預かってくれる保育園、休日に子供を預けられる幼稚園、手軽で安心な家事サービス、高齢者が安価で楽しんで入れる介護施設などが増えることで、初めて女性がきちんと働ける環境が整うのではないでしょうか。ここで重要なのは、これらのサービスを民間が実施するということです。政府は規制緩和、公共財の提供、ルールの整備・監督に努めるべきです。新しいサービスは一人一人の創意工夫から生まれるのであって、政府の規制や補助金の中からは決して生まれません。


人口問題研究所によれば、今の20代は5割が孫を持たないと予測されているほか、高齢者単身世帯の急増が予測されており、『物事を家庭内で全て解決する』という考え自体が既に成り立たなくなっています。少子高齢化は単なる人口減少ではなく、家族形態をも変えるインパクトがあります。日本では世界に10年先駆けて少子高齢化を経験するので、少子高齢化という社会変動に伴い新しく生まれる産業が、真っ先に誕生する場所です。これは国際的な競争力を持つ産業であり、日本が少子高齢化を乗り切れるかどうかの試金石でもあります。上で挙げた産業は一例ですが、人生をかけて、投資家の立場から、これらの産業を応援したいと考えています。


参考文献:
速水 融(2001)“歴史人口学で見た日本”
Hayashi and Prescott (2002) “The 1990s in Japan: a lost decade,” Review of Economic Dynamics