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マズローの欲求段階説から考える高齢化関連産業

人間には様々な欲求があります。典型的なのは食欲や睡眠欲といった昔から存在する欲求です。ただし、経済が発展するとともに、知的好奇心、自己実現の欲求、他者からの承認に対する欲求、といった新しい種類の欲求を持つようになりました。「経済成長の原動力は欲望である」という言葉もあるように、人間がどんな欲求を持っているかについての理解は、これから世界で発展する産業を見極めるのに不可欠な要素だと覆います。


人間の欲求に関する研究で有名な心理学者に「欲求段階説」で有名なマズローという人がいます。マズローは、人間の基本的欲求を5段階に分類し、人間は自己実現に向かって成長する生き物であると結論付けました。そして、人間の欲求には優先度が存在し、低次元の欲求が満たされると、より高い次元の欲求に移行すると論じています。マズローの5つの欲求は低次元から以下の通りです。



マズローの分類による5つの基本的欲求>
1.生理的欲求
2.安全の欲求
3.愛・所属の欲求
4.承認の欲求
5.自己実現の欲求



1.生理的欲求
人間のすべての欲求の中で最も基礎的かつ強力なのは生命維持に関する欲求です。具体的には、食欲、性欲、睡眠欲などが該当します。もしあなたに食べ物、自己承認、愛を欠いているとしたら、まず第一に食べ物を要求し、この欲求が満たされるまでは他の欲求を背後に追いやることになると思います。


2.安全の欲求
安全性、秩序、健康な状態、経済的な安定など、予測可能な世界を求める欲求のことです。病気に対するヘッジのための保険、年功序列の賃金などがこれに当たります。安全の欲求は、一般には現代の健康な正常人においては満たされており、子供とか神経症患者が満たされていないそうです。


3.愛・所属の欲求
生理的欲求と安全の欲求が満たされると、愛・所属の欲求が現れます。人間は普通、他の人々との愛情関係や自分のいる集団の中で一つの位置を占めることを切望するようになります。そして、この目的を達成するためには物凄い努力をします。


4.承認の欲求
人間は二種類の承認欲求をもっています。それは自尊心と他者からの承認です。自尊心は、自信、能力、達成、自立、そして自由などに対する欲求を含んでいます。一方他者からの承認は、名声、表彰、注目、地位、評判、そして理解などの概念を含んでいます。自己承認が不十分だと人間は劣等感や無力感を抱く傾向があるそうです。


5.自己実現の欲求
人がなりたいものに益々なろうとする願望、もしくは人がなることのできるものなら何にでもなろうとする願望のことです。自己実現の欲求は、通常、愛情欲求と承認欲求が適度に満たされた後に発生します。



★★



高齢化関連産業と聞いて一般人が抱くイメージは「高齢者はお金を使わない」、「戦後贅沢せずに生きてきたからお金をかけずに生活を楽しめる」、「過去の経験からムダなものを買わない」といったものではないでしょうか。確かに高齢者は戦後贅沢せずに生きてきたので、食費や光熱費を安くあげる能力があり、普通のモノを売るビジネスは難しいです。しかし、マズロー欲求段階説に基づき高齢者の欲求が何かを考えると、高齢化関連産業に明るい光が見えてきます。


高齢化関連産業で最も有望なのは「愛・所属の欲求」を満たすビジネスです。高齢者の愛・所属の欲求は、これまで基本的に夫婦と家族が担ってきました。ところが今後は、高齢者単身世帯の急増が予測されており、夫婦や家族がこれを担えなくなります。要するに一人でさびしい高齢者が急増するということです。高齢者単身世帯急増の理由は、夫婦の観点から言えば、熟年離婚が増加していること、長寿化によってパートナーが亡くなった後の生活期間が長くなったことが挙げられます。家族の観点から言えば、出生率の低下、結婚しない子供の増加(今の20代は4割弱が一生子供を産まない世代)、グローバル化による子供の海外勤務などが挙げられます。


高齢者の「愛・所属の欲求」がどれだけ強いかは、高齢者向けメディアに既に現れています。例えば、50代以上を主な購読者層とする「いきいき」という雑誌の2月号では、「ひとりで暮らしても、ひとりにならない生きかたを」という大特集が組まれています。同紙の2月号には「サードファミリー」なんて特集もあります。シニア・ナビという高齢者向けSNSがありますが、そこで最も人数の多いコミュニティは「おひとり様が集まるオフ会」に関するものです。旅行会社各社からは「65歳以上でおひとり様限定」のバスツアーが多数企画されています。その旅行に参加して友達を作るわけです。


所属の欲求を満たすのは家族や友達だけじゃありません。労働やNPOなんかもその手段になり得ます。高齢社という高齢者専門の人材派遣会社がありますが、この会社のホームページのトップページには大きな文字で『高齢者に「働く場」と「生きがい」を』と書いてあります。高齢者はすでに退職金と年金があるので多額の金銭は求めておらず、生きがいや所属の欲求を求めて働く人が多いです。高齢社はこの特性を活かして、低い年収で人材を派遣し、業績を伸ばしています。私は平均年齢70歳のNPOで活動していた経験がありますが、個人の実感としても「所属の欲求」を求めてNPOに参加する高齢者が多いように思います。



★★★



このように高齢者が「愛・所属の欲求」を満たそうとする行動は、メディアからビジネスまで様々な場所で既に発生している現象です。現に、雑誌でひとりになった時の対策法を学んだり、SNSのオフ会に参加したり、友達を求めて一人で見知らぬ人が集まる旅行に参加したり、たくさんの時間を使って「所属の欲求を満たすために」NPOに入ったりするわけです。ビジネス面でも生きがいを求めて、「月給10万円以下でも働きたい」という高齢者は少なくありません。


今後日本では高齢者の増加、もっと言えば単身高齢者世帯の増大が見込まれています。そんな高齢者の「愛・所属の欲求」を満たすビジネスこそが、高齢者関連産業で最も成長率の高い分野なのではないでしょうか。マズローが言うとおり、愛・所属の欲求を満たそうと人間は「物凄い努力をする性質」があるのですから。