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企業の持つぶっとび周遊カードはそろそろ有効期限切れ

4月ということで、多くの社会人が人事異動によって様々な地方や国に移動しています。新しく就職する人も、どこの支店に配属されるかが決まる時期ですが、彼ら彼女らは事前にどの地方に行くかが予測できないことから、この時期に渡される配属通知をぶっとびカードと呼んだりします。東京にいた人が、紙切れ一枚で、大阪やフクシマや広島に飛んでしまう現象を指した言葉です。


多くの日本人は、このような移動を当然のことだと考えています。住む場所を自分で選べなくても仕方ない、企業が人を移動させるのは当たり前のことだ、という価値観が一般的になっています。しかし、よく考えて見てください。自分が住む場所を自分で選べないなんて、不自然だと思いませんか?住む場所を自分で選べなくても「仕方ない」と思っているということは、本当は自分で住む場所を選びたいとも思っているわけです。でも、今の日本ではそれができない。なぜか。日本企業の組織形態が、住む場所を選びにくくしていためです。


戦後の日本企業は、労働者に対してどこの会社でも役立つ一般的熟練でなく、その人が所属している企業や職場特有の専門知識である企業特殊的熟練の蓄積を促しました。英語やITを学ぶ代わりに、自動車の塗装、金型製作、その企業独自の根回しの方法などを学ばせたわけです。そのようなスキルは他の会社で役立ちにくいため、労働者は転職しにくい状態にあり、殆どの人が会社のぶっとびカードを拒否できませんでした。転職市場が未発達ということも、労働者の交渉力を下げる要因となりました。また、年功序列という給料後払いの賃金体系によって、労働者が他の会社に行くインセンティブが小さくことも、住む場所を選びにくくしました。加えて、一つの家庭に子供が5人いたりして労働力が豊富だったことも、労働者の交渉力を下げました。さらに、「男が外で働き、女は家庭を守る」という時代だったため、専業主婦の女性が多く、男性の移動を妨げる要因が少なかったことも、会社のぶっとびカードが通りやすい状況につながりました。


しかし、現在ではそのような状況が変わりつつあります。今の労働者は、英語やIT等のどこの会社でも役立つ一般的熟練の習得に力を入れ始めています。また、転職市場も以前より着実に拡大しています。賃金は年功序列から成果主義に少しずつシフトしていますし、年功序列の賃金体系が一生続かないと考える人も増えています。少子化によって労働力の急減が見込まれることも、ぶっとびカードを拒否しやすくしています。


そして何より、男女とも働くようになり、必ずしも女性が男性の移動についていけるとは限らなくなりました。日本は少子高齢化によって今後大幅な人手不足が予測されるため、総合職で働く女性がさらに増えると見込まれています。このような環境下で、企業が夫婦双方にぶっとびカードを出した場合、(1)別居生活で双方が移動に従う、(2)男女どちらかが会社をやめる、という2択のどちらかが選ばれます。専業主婦が多かった時代には、会社は(2)によって損害を受けなかったのですが、今後は大事な人材を失う可能性が出てきます。つまり、簡単にはぶっとびカードを使えなくなりました。昔は(1)を選ぶ人も少なからずいましたが、その中には東京と大阪の別居など、週末に帰れる距離のケースが大半でした。しかし、グローバル化の進展によって、今後の移動先は夫が中国、妻がブラジルなどいうように変化していきます。ただでさえ働く女性が増えて子育てが大変な中で、滅多に会えない距離の別居生活を選ぶ人は少ない気がします。


このように、企業の持つぶっとび周遊カードは、そろそろ有効期限切れが近づいてきています。少子高齢化とグローバル化が進展する現代においては、企業の組織形態や人々の移動の仕方にも変化が必要なのではないでしょうか。