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欧州債務問題をたった1つの図で説明する

欧州債務問題に関するニュースを色々なメディアが連日のように報じています。しかし、そこで語られる内容は玉石混合であり、ギリシャ人が怠け者だから問題が解決しないとか、ユーロは5つに分裂するとか、見当違いの意見が多いです。たまに正しい情報を基に報じられることがあるものの、その情報は得てして断片的であり、記者やコメンテーターの方が必ずしも問題の全体像を掴んでいるとは言えません。そこで、無謀とは知りながら、欧州債務問題とは何かを1つの図で説明したいと思います。(もちろん複雑な問題を1つの図で全て説明できるとは思っていませんが、欧州債務問題の全体像をざっくり掴んでいただけたら幸いです。)


下の図が欧州債務問題の大まかな全体像です。


この図を見てまず分かることは、欧州債務問題とは単にギリシャが借金を返せないという問題(国債の債務不履行懸念)だけではなく、様々な問題が複雑に絡み合っているということです。例えば、①景気低迷、②銀行に対する懸念、③政府の財政緊縮、といった問題が欧州債務問題の中にあります。これらの問題が相互作用し、悪循環に陥っているのが現在の状況です。以下では欧州債務問題の4つの悪循環のメカニズムについて述べたいと思います。



第1の悪循環は、上の図にあるように『財政赤字拡大→財政再建→成長率の低下→財政赤字拡大』というものです。ギリシャを例にすると、2009年10月の政権交代後、現政権は前政権が財政赤字を過小評価していたとして、6%程度と見られていた2009年財政赤字を12.7%となる見込みである旨を表明しました。これを受けて投資家の信頼は失墜し、ギリシャ国債の価値はみるみる低下しました。困ったギリシャ政府は投資家の信頼を取り戻そうと、公共事業の削減や増税といった財政再建策を打ち出します。当然のことながら、増税などの財政再建策は国内の景気を落ち込ませる要因となります。景気が好調な時なら増税をしても問題はないですが、この時のギリシャは必ずしも景気が好調なわけではありませんでした。そのため、財政再建によって景気が落ち込み(GDP成長率が低下し)、GDP比の財政赤字も拡大しました。その結果、借金を返せるという安心感を与えるため、更なる財政再建策に取り組むことになります。


2011年のギリシャのGDPは▲5%の見込みであり、失業率は約15%と深刻な不況に陥っています。このような状況下で、更なる財政再建策を講じても、『財政赤字拡大→財政再建→成長率の低下→財政赤字拡大』という悪循環は止まらないとみられています。この悪循環は何もギリシャに限ったことではなく、ポルトガル、イタリア、フランスといった他の国でも同様の事態が発生しています。



第2の悪循環は、上の図にあるように『財政赤字拡大→国債の債務不履行懸念→銀行への懸念→財政赤字拡大』というものです。ある国の財政赤字が悪化すれば、その国の借金である国債は大丈夫かなと債務不履行懸念が高まります。これにより一番困るのは銀行です。なぜなら欧州の銀行はギリシャやイタリアの国債を大量に保有しているからです。保有している国債の価格が下落すれば、銀行が大量の被害を受けることになり、下手をすると倒産しかねません。現に、フランス・ベルギー系大手銀行デクシアや、米ブローカー・ディーラーの持ち株会社MFグローバル・ホールディングスは、欧州周辺国の国債の値下がりを背景として経営破綻しました。


銀行が倒産すると、預金の取り付け騒ぎが発生したり、企業にお金がまわらなくなったりと経済への影響が大きいです。そのため、銀行の倒産懸念が生じた場合、国が銀行に公的資金を投じます。デクシアの場合、フランスとベルギーが税金を銀行に注入しました。そうなると、フランスやベルギーの支出が増えるため、国の借金は増大し、財政赤字は拡大します。『財政赤字拡大→国債の債務不履行懸念→銀行への懸念→財政赤字拡大』の悪循環の振り出しに戻ってしまいました。国が銀行を救済しようとすると、その国の財政赤字が増え、債務不履行懸念につながります。ここらへんが欧州債務問題が一筋縄ではいかない一つの理由です。



第3の悪循環は、上の図にあるように『成長率の低下→銀行への懸念→成長率の低下』というものです。景気が悪くなれば、企業が投資を控えるようになるため、銀行は貸出を増やしにくくなります。それだけでなく、景気が更に悪化すれば不良債権が増え、銀行への懸念につながります。すると銀行は倒産懸念を払拭しようと、貸し渋り貸し剥がしを行い、現金を手元に集めようとします。その結果、企業はお金を借りにくくなり、国全体のお金まわりも悪くなり、経済成長率が低下することになります。それが更なる銀行への懸念につながり・・・以下ループです。



第4の悪循環は、上の図にあるように『国債の債務不履行懸念→財政再建→経済成長率の低下→財政赤字拡大→国債の債務不履行懸念』というものです。国債の債務不履行懸念を表す指標として、国債利回りやCDSといった金融商品がありますが、需給面でこれらの値が変動することも悪循環を引き起こします。例えば、ヘッジファンドがイタリア国債を大量に売った場合、イタリア国債が急落し、これをもって国債の債務不履行懸念が高まったと人々が判断することがあります。そうなると、政治家も大変だと認識し、慌てて緊急の財政再建策を打ち出します。その結果、経済成長率は低下し、GDP比の財政赤字は拡大し、更なる国債の債務不履行懸念につながります。イタリアの経済や財政赤字の状況に何ら変化がなくても、需給面から金融商品の価格が下落すれば、欧州債務問題が悪化するというのがこの悪循環のポイントです。



こうした4つの悪循環を断ち切るために、欧州政府が何をしているかというのを示したのが上の図です。欧州政府は、お金持ちに周辺国の国債を買ってもらい、銀行に資金を投じてもらうことで、不安を払拭しようとしています。しかし、お金持ちの国は、そう簡単にギリシャなどの危なさそうな国にお金を出してくれません。出したくもありません。ドイツ人を例にとると、「何でオレが汗水たらして稼いだお金を、怠け者のギリシャなんかにあげなければならないんだ。」となるわけです。また、欧州中央銀行(ECB)も周辺国の国債を購入していますが、債務不履行に陥る可能性の高い国の国債は買いたくないというのが本音です。そのため、この矢印は非常に弱く、政策は往々にして揺れ動きます。ユーロ圏が多くの国の集まりであることも、政策の決定プロセスを複雑かつ歩みの鈍いものにしています。



上の図のように機関投資家やヘッジファンドの立場にたってみると、こうした国債は売りやすいです。第一に、欧州債務問題は様々な事象が複雑に絡み合っており、上記の4つの悪循環がなかなか解消されそうではないため。第二に、政策対応が揺れ動く上に遅いため。金融市場の動きより後手後手で政策が動くことが多いため、売る材料に事欠きません。第三に、投資家に対する説明責任のため。万が一私がギリシャ国債に投資していて、ギリシャ国債が債務不履行に陥ってしまった場合、顧客から「ギリシャが危ないなんて分かっていただろ。何でそんな国に投資していたんだ。」と怒られてしまします(この怒りは正論かつ当然です)。顧客の資産を安全に運用しようとするほど、危ない国の資産には投資しにくくなります。



欧州債務問題を解決する方法についてですが、上の図にあるように、まずはお金持ちに資金を出してもらうことが考えられます。中国、IMFなどに周辺国国債を買ってもらい、銀行に資金を注入してもらえれば、国債の債務不履行に対する懸念や銀行の倒産懸念が和らぎます。今週末のG20はこうした外部資金がどの程度欧州に投資されるかに注目が集まっています。また、ユーロ圏内ではドイツと欧州中央銀行が資金を保有しているため、こうした主体がお金を出せば欧州債務問題の解決に一歩近づきます。



更に第一の循環を打破するために、短期的には利下げやユーロ安といった政策が考えられます。金利を引き下げることで、国内の投資を促せる他、通貨安が輸出増・輸入減に寄与し、景気の下支えにつながります。


長期的には2つの方策が考えられます。1つは構造改革による潜在成長率の引き上げです。ユーロ圏は伝統的に労働組合の力が強く、高賃金で解雇しにくい労働者が多いため、解雇規制を緩和すれば潜在成長率が上昇すると見込まれています。もう1つは財政統合であり、日本のようにユーロ圏が財政上で一つの国家になってしまう方法です。日本では東京と北海道で成長率に違いがありますが、財政上は一つの国家として成立しています。なぜかと言えば、東京の信用力によって安く資金を調達できる他、地方交付税交付金や公共事業によって、東京で稼いだお金を北海道に再分配しているからです。これと同様に、ドイツの信用力によってユーロ圏全体で安く資金を調達し、その資金をギリシャ等に再分配すれば、周辺国の成長率低下に歯止めがかかります。