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人口変化とその影響を明らかにし、変化対応を支援するブログです。

書評『利益第二主義―過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学/牧尾 英二』

利益第二主義―過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学

利益第二主義―過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学



<経歴>
1941年鹿児島県阿久根市に生まれる。1960年川内商工高校を卒業後、富士精密工業(現日産自動車)に入社。1982年帰郷し、マキオホームセンターの経営に乗り出す。1985年株式会社マキオを設立し、代表取締役社長に就任。1989年マキオプラザを開店。1997年3月過疎化と高齢化が進む阿久根市に日本初の24時間営業の大規模小売店A-Zスーパーセンター(現A-Zあくね)を開店。小売業界の常識に捉われない利益第二主義の経営を貫き、躍進を続ける。2005年11月川辺店(現A-Zかわなべ)開店。2009年3月A-Zはやと開店。曽於郡大崎町に4号店、宮崎県高原町に5号店を出店予定。




<100字要旨>
常識外れの経営で年率30%の売上成長を続け、マスコミと業界関係者がこぞって訪れる、少子高齢化に最も対応したスーパーがAZあくねだ。同社飛躍の秘訣は徹底した顧客志向と小売業の前例に囚われない現場主義にある。




<常識外れの経営で急成長を遂げる過疎地の巨大スーパー>
常識外れの経営で年率30%の売上成長を続け、マスコミと業界関係者がこぞって訪れる、少子高齢化に最も対応したスーパーがAZあくねだ。



1997年、過疎化と高齢化が進む田舎町、人口わずか2万7000人の鹿児島県阿久根市にAZは誕生した。日本初の24時間営業の大型小売店で、敷地面積は東京ドーム3.6個分に相当する17万平方メートル、商品点数は23万点。食料品、衣料品、家電、カー用品など生活必需品を全て低価格で揃え、「地域の生活者のお手伝い」を目的として開業した。



従来の小売業では商品の回転率を高めるために、品揃えを売れ筋商品に絞るのが常識だ。しかし、AZでは、販売効率を一切追求しない。商品のPOS管理もしない。地域の人々の日常生活に必要なものは何でも揃える、効率無視のフルラインナップの品揃えを行っている。その結果、商品点数は当初の23万点から36万点に膨らんだ。



また、AZでは、タイムサービス、日替わり特価などの特売は原則として行わない。すべての顧客に公平に安さを提供するため、エブリデー・ロープライスを追及している。集客チラシはお盆・正月・創業記念日にだけ配布する。その結果、売上高に占める販売促進費の比率は業界平均の20分の1以下となっている。



商品の仕入れは地元の業者を最優先とし、仕入れ先に無理な値引きは要求しない。人材教育は、マニュアル、社員教育、定年制度が一切ない。このように小売業の常識全てを否定するAZあくねの年商は現在100億円を突破し、その売上も伸び続けている。




<AZ飛躍の秘訣は徹底した顧客志向にあり>
社長の牧尾氏は現在の小売業を「売り手の都合で商売をしている」と痛烈に批判する。例えば、地元の小売店について、「スーパーに並ぶ商品の品揃えは少ない上に古い。棚の商品の値段は定価に近い。さまざまな商品を一か所で買い物できる店もない。」と切り捨てる。また、大手小売業についても、「人口が多いところに出店して、品揃えは売れ筋商品に絞り、回転率を上げる大手小売業の考え方は、消費者の視点から考えられたものではない。」「お客様を惑わすような目玉商品を用意して、宣伝広告費をかけて購買意欲をかきたてる販売方法は売り手の一方的な都合に過ぎない。」と手厳しい。



このような問題意識が背景にあるため、牧尾氏が経営するAZは顧客志向が徹底している。加えて、阿久根市のような少ない人口で、何でも揃う店の経営を成り立たせていくには、お客様に頻繁に何度も買い物に来ていただけるお店でなければならないということも、買い手目線による店舗運営に繋がっている。



ここではその具体例を、上述の24時間営業や効率無視の品揃えという点以外に2点紹介したい。1点目は、片道100円でお客様の自宅まで送迎する買物バスの運行だ。過疎の町にはバスなどの公共交通機関が殆ど走っていない。このような環境で自動車の運転ができない高齢者にも買い物ができるように、自社で採算の合わないバスを運行させている。2点目はバックマージンや報奨金の拒否。小売業では、これだけ売ればいくら報奨金が出ますという話が多いのだが、AZはそういう話を全て断っている。お中元やお歳暮も含めて付け届けも一切受け取らない。そのため、買い手目線の売り場構成が可能となっている。




<小売業の前例に囚われない現場主義がイノベーションを生み出す>
AZは開店間際まで従業員の確保にとても苦労したそうだ。過疎化と高齢化が進む中で、阿久根市周辺では優秀な働き手がなかなか見つからないためだ。結果として、定年退職者や主婦など小売業の未経験者ばかりの素人集団での立ち上げとなった。しかし、AZではこのことが逆に幸いした。素人は小売業の色に染まっていないので、ゼロベース思考から顧客の役に立つ組織体制やアイデアが次々に生まれた。



例えば、AZには仕入れの機能がない。他のスーパーにあるような商品部もバイヤーも存在しない。その機能を代替するのが各売り場の担当者だ。青果、総菜、家電、衣料品など品種ごとに分けられた各店の32部門の売り場責任者に、仕入れ業者の選定、仕入れる商品の選定、仕入価格、数量、販売価格など、それぞれの売り場の仕入れから棚のレイアウトまで、あらゆるオペレーションが任されている。バイヤーを置かないのは、毎日、商品を陳列して、お客様と接している売り場担当者こそが、売り場作りの答えを誰よりもよく知っているからだ。「データを見る暇があったら売り場へ出る」との方針から、商品管理やPOSデータも殆ど見ない。36万点のデータをとても処理できない上に、管理販売をやればやるほど内向きになって、売る側の都合が優先されるためだ。また、売上高も利益も全く気にしない。数字を追いかけると、どうしても売り場に魅力がなくなるためだ。




<興味深かった点>
1.銀行融資ではなくベンチャーキャピタルの資金で開業
AZは建設途上で銀行に融資を辞退されている。開店しても成功はおぼつかないのではないかという周囲の声に怖気づいた主力銀行が「自信がないから辞退させてください」と融資を取りやめたのだ。その後、オープンの日まで23の金融機関を回ったそうだが、結局資金のめどが立たなかった。困り果てたところへ、野村證券鹿児島支店の支店長が「あなたの話を聞いていると、宅急便で成功したヤマト運輸が思い浮かびます。24時間営業の大型店はきっと成功しますよ。」と言ってベンチャーキャピタルの日本合同ファイナンス(現・ジャフコ)と日本アジア投資を紹介してくれたそうだ。この二社の投資によって、AZは九死に一生を得た。



このケースから分かるように、銀行融資は少子高齢化時代の金融の仕組みとしては不適だ。日本は経済が拡大するフェイズから縮小するフェイズに早晩移行するが、このような環境下では、大半の企業の売上や利益が縮小する一方、AZのような少子高齢化に適応する少数の企業が大きく成長する。日本経済全体が毎年10%成長するような時代なら銀行融資のリスクは小さいが、日本経済全体が毎年1%縮小するような時代においては融資のリスクが大きくなる。そのため、今後の日本ではデッドファイナンスからエクイティファイナンスへの移行が進むだろう。当然、今の銀行の減点方式による制度ガチガチの組織体制も変わることになろう。




2.高齢者をターゲットにした店づくりをしない
過疎地のスーパーについての本ということで、高齢者にどのような配慮をしているのかに注意して読んだのだが、驚いたことにAZは高齢者をターゲットにした店づくりをしない。赤ちゃんからお年寄りまで、地域のすべてのお客様を平等に考えた商品構成を行った結果、お年寄りが毎日の生活に必要とされる商品もすべて品揃えをしているとのことだった。



前にルルレモンというアメリカのアパレルメーカーの記事を書いたが、そこでは40歳に30歳向けのヨガ用ウェアを販売していた。セブンイレブンの宅配ビジネスでも、高齢者向けの弁当宅配とは気づかれないように巧妙にチラシが作られていた。このような事例から言えるのは、ある高齢者をターゲットにする商品やお店を作る場合、明らさまに「高齢者向けですよ!」と分かるような構成にするのは得策でないということだ。「若者も利用するお店ですよ!」というように、来店者に若い気分を味わってもらえる店舗の方が、おそらく高齢者に好まれる。




<この本の意義、評価>
少子高齢化に対応したビジネスモデルを提示したという点で画期的な一冊である。セブンイレブンの鈴木敏文会長は「小売業は変化対応業である」という言葉を残しているが、過疎化や少子高齢化に見事に対応した新時代の小売業がこの本の中では描かれている。いずれ大学院等でAZがケーススタディーとして用いられるようになるだろう。


残念だったのは、マニュアル化して「誰にでも」「どこでも」売れるビジネスにどうするのかが不明な点だ。また、小売りのパラドックスをどう切り抜けるかも今後の課題として残ろう。『(1)高コスト企業で溢れる小売業界における低コスト企業の新規参入→(2)高コスト企業の倒産と新規参入企業のシェア拡大→(3)新規参入企業の高付加価値化推進→(1)に戻る』というパラドックスが小売業界には存在し、同社はちょうど(1)と(2)の間に位置する。同社は過疎地での地域独占が可能なため、売り手に対する価格交渉力が強く、大幅な値上げも可能であろう。AZは値上げの誘惑に負けず、今後も顧客志向と現場主義の合わせ技により、ぜひとも小売りのパラドックスを破って欲しい。




<関連するテーマの書籍>
AZという店舗を構想してから実現するまでに、同社は行政との交渉に11年間も費やしている。規制がイノベーションを阻んだ典型であろう。日本の歴史上、小売業が欧米のようにほとんど制約なしに自由に商いができたのは、安土桃山時代の楽市楽座でにぎわった約20年間と、昭和30年前後からの約10年間だけであった。そのほかの時代は、幕府などの権力のもとで特権を得た一部の御用商人が商売を独占し、近代になってからは政府の規制によって自由な商いができず、生活者にずっと不利な状況が続いてきた。今後、AZのようなイノベーションや消費者利益の向上を図るには、経済政策面での小さな政府が日本にも必要であろう。このような規制緩和によって経済成長と福祉立国の両立を成し遂げた国にスウェーデンがある。同国の経済政策は今後の日本を展望する上で一読の価値があろう。
→スウェーデン・パラドックス(後日更新)