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Population

人口変化とその影響を明らかにし、変化対応を支援するブログです。

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く/藻谷浩介

デフレの正体  経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)

デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)



100字要旨
生産年齢人口減少と高齢者激増による内需縮小が日本経済低迷の原因である。内需縮小脱却には、高齢富裕層から若者への所得移転、女性就労の促進と女性経営者の増加、訪日外国人観光客・短期定住客の増加が必要だ。



国際競争とは無関係に進む内需縮小こそが日本経済低迷の原因
日本経済低迷の原因として国際競争力低下や海外景気悪化がしばしば指摘される。しかし、日本は世界同時不況化でも貿易黒字を維持した他、バブル期の4倍以上も所得黒字を計上しており、景気低迷の原因は国際競争に負けたためではない。それとは無関係に進む内需の縮小こそが、日本経済低迷の原因である。実際、戦後最長の好景気にも関わらず、国内新車販売台数・小売販売額・貨物総輸送量・一人当たり水道使用量といった内需を代表する指標は総じて低下した。内需縮小の犯人として地域間格差をやり玉に挙げる報道が多いが、地方だけでなく都市も内需不振である。例えば、90年度を100とした06年度の小売販売額の水準は、青森が98、首都圏1都3県が96、都心23区が90と、いずれも100を下回っていた。青森の方が都心23区よりマシな水準で推移しており、少なくとも世間で言われる「地方が衰退して東京は一人勝ち」という事態は発生していない。



生産年齢人口減少と高齢者激増が内需縮小の理由
日本の内需縮小の理由は生産年齢人口減少と高齢者激増の2点である。生産年齢人口とは経済学的に定義された現役世代の数であり、15-64歳人口が該当する。恒常的に失業率の低い日本では、景気循環ではなく生産年齢人口の波、つまり毎年の新卒就職者と定年退職者の数の差が、就業者総数の増減を定め、個人所得の総額を左右し、個人消費を上下させてきた。すなわち、生産年齢人口減少に伴う就業者数の減少こそが、平成不況の正体である。生産年齢人口減少の裏側で、高齢者の絶対数は増えているのだが、高齢者は物質面である程度満たされているため、モノに対するウォンツが少ない。最も強いウォンツは将来健康を損なった場合の医療福祉サービスであるため、病気の可能性に備えて貯蓄をする。しかし、高齢者はいつ病気をするか、何歳まで生きるか不確実なため、死ぬ瞬間まで一定の貯蓄を残す傾向がある。それ故、高齢化も個人消費の低迷に繋がっている。



内需縮小脱却の三つの方法(若者への所得移転、女性就労促進、外国人観光客増加)
第一に、高齢富裕層から若い世代への所得移転を促進すべきである。貯蓄を持っているのが高齢富裕層ではなく若い世代中心であれば、個人消費の総額は今より増加する。なぜなら、消費性向は世代によって大きく違い、子育て中の世代が最も高いからだ。具体的には、年功序列賃金の弱体化や生前贈与促進が考えられる。第二に、女性就労の促進と女性経営者の増加を図るべきだ。現役世代の専業主婦の4割が働くだけで団塊世代の退職が補える。内需縮小の処方箋として外国人労働者導入を主張する人がいるが、目の前の教育水準が高くて、就職経験が豊富で、能力も高い日本人女性をまずは活用すべきだろう。なぜなら、日本語教育社会福祉制度といった追加コストがかからないからだ。第三に、訪日外国人観光客・短期定住客の増加に取り組むべきだ。外国人観光客を増やし、国内で多く消費してもらうことほど、副作用なく効率の良い内需拡大策は見当たらないだろう。



斬新な点
上述の生産年齢人口減少と高齢者激増の同時進行を少子高齢化というズレた言葉で表現する習慣が全国に蔓延している。しかし、少子高齢化という単語は、少子化(子供の減少)と高齢化(高齢者の激増)という、全く独立の現象を一緒にしているとんでもない表現であり、子供さえ増やせば高齢化は防げるという誤解の原因にもなっている。更に、最重要課題である生産年齢人口減少を覆い隠すという欠点もある。従って、著者は少子高齢化という言葉は絶対に使わないようにしており、この単語を発する識者やこの単語が書かれた論説は、事柄の全体像が良く分かっていない人ということで信用していない。実際、少子高齢化という言葉を「なんとなく日本の問題点を指す言葉」として使う人は多い。そのため、少子高齢化という言葉の使用頻度や使い方によって、少子化・高齢化・人口減少・生産年齢人口減少といった問題を論じる識者の理解度を一定程度判断できるだろう。



<書評一覧>
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No.2→医療戦略の本質―価値を向上させる競争/マイケル・E.ポーター、エリザベス・オルムステッドテイスバーグ
No.3→利益第二主義―過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学/牧尾英二
No.4→50以上の世界―「標準世帯」の終わり・から/油谷遵、辻中俊樹
No.5→デフレの正体 経済は「人口の波」で動く/藻谷浩介